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嘉麻の里
2006年12月号 『総 理 訪 中』
   自民党の総裁選挙も終わり、国会における首班指名の結果、安倍内閣が発足したのが9月26日。それから2週間も経たない10月8日、安倍総理の訪中が行われました。前々から中国外交部と交渉を重ねてきていた外務省としては、成果は大きかったと思っています。  
   思い返せば小泉総理誕生の2001年からずっと、中国政府は「中国人民の感情がひどく傷つけられる」ことを理由に、総理の靖国参拝を批判し続けてきました。従って、中国政府が最も抵抗感がある8月15日という日に、小泉総理がモーニング姿で昇殿参拝を行ったことは中国政府に対して最も挑発的な態度であり、当然怒り心頭に発する行為として、今までよりも強い反応を示さないと辻褄が合わないことになると思いますが、皆さんもそうは思われませんか。  
   しかし、今回の中国政府の反応は、えらく抑制的なものでした。つまり「面子」とか「感情」よりは、日本との関係改善を図りたいという様子だと見受けられます。  
   日本のマスコミや野党からは、この5年間の小泉外交の失敗とか、東アジア外交の失策とか、アメリカに偏向している日本外交の結果などと、よく批判されてきました。 しかし私は中国の対日外交上の誤算による部分が大きかったと思っています。そもそも日中関係が悪くなった最大の原因は、中国政府が本来は宗教問題であり、日本の国内問題であるはずの靖国参拝を日中間の最大の外交問題と位置づけ、この解決を日中関係正常化の大前提にしたのが始まりです。小泉総理が靖国参拝をやめない限り「小泉政権を相手にせず」との方針を取り続けてきたのが中国政府でした。  
   この間、日本国内でも中国の態度に呼応して「『政冷経熱』が経済も『涼』とか『冷』になり、日本経済は大打撃を受ける」といった話が財界やマスコミで随分と出ました。しかしこれに比べ、国民は今では経済的な損得より、国家の品格、国の名誉を守ることに関心を持ちつつあるのではないかと思います。「中国にぺこぺこして得することはない、むしろ損する」と感じる国民が多くなったと私は分析していますが、いかがでしょうか。  
   私はこの感覚の大変化の背景に日本経済の底力があると思います。あれほどの資産デフレによる大不況に襲われながら、日本経済全体は500兆円の国内総生産を維持し続けました。もちろんリストラや貸しはがしでエライ目にあった人もいます。しかし日本経済は底割れすることなく、世界第2位の経済力を維持し、中国との外交関係が少々オカシクなっても、経済的に決定的な悪い影響は出ないという確信を多くの国民が持ったと思います。  
   昨年10月私は外務大臣になりましたが、今年に入ってからの中国政府の対日外交の変わりようは、実に興味深いものがあると思っています。一番明らかなのは今年3月14日の第10期全国人民代表大会後の温家宝首相の記者会見でしょう。中国政府の従来の話を繰り返しながら、靖国問題の解決とは関係なく「政府間の戦略対話の継続」を含め、日中間の包括的な改善策を提案したんです。私はこれを見て長らく途絶えていた日中外相会談を提案しましたが中国外交部もこれに応じ、カタールのドーハにおいて実現しました。  
   ご存じかと思いますが2005年の対中投資は日本以外の国からはマイナス0.5%で、日本だけがプラス約20%になっています。しかし2006年に入るや日本の対中投資は激減して、上半期(4月から9月)でマイナス31.4%となりました。明らかに「経涼」が「経冷」になったと中国も感じたと思われます。
   しかし、この間の「靖国参拝」に対する態度は、小泉・安倍両総理とも変化していません。つまり、彼らのいう「靖国問題」は何ひとつ解決されないままです。日本の親中派といわれる国会議員も、総裁選をご覧になればお分かりのとおりで、また、国民はNHKの番組の調査で63%が靖国参拝を支持しました。
   幸い、安倍総理の訪中が成果を挙げ、中国の対日政策は反日から親日に向きつつあります。
   要は、「日中共益」であって、「日中友好」はその手段と認識して、外交を見ていただければと存じます。情緒的なアプローチや対応は、時として国益を大きく損ないますので。


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