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嘉麻の里
2006年8月号 『テ ポ ド ン』
 平成18年7月5日午前3時半、隣国北朝鮮は近隣諸国に対して何の事前通告もしないまま、ノドン、テポドン、スカットなどと思われるミサイルロケットを合計7発発射しました。明らかに「日朝平壌宣言」違反です。もちろん日米韓中露北の六者会合共同声明にも違反していることは明らかです。  
   日本としては、直ちに国連の安全保障理事会に北朝鮮の暴挙に対応する決議案を上程しました。国連に加盟して50年、日本が提案国として安全保障理事会をリードしたのは初めてのことであります。幸いに日本の他にも米英仏をはじめデンマーク、スロバキアほか7カ国が共同提案国になってくれました。  
   初動の速さが奏功したということでしょう。それから7月16日、日本時間の午前4時45分までの11日間は、日本の外交の真価が問われる厳しい時期となったもの の、総理官邸と外務省間の意思疎通は風通しがよかったし、日本の態度がブレなかったこともあり、最終的に決議案の全会一致での採択という結果を得ました。  
   アメリカとしては日本の決議案に乗って後押ししても、中国や韓国に言われて日本が途中で勝手に妥協するのではないかと心配というか、疑っていたと思われま す。そこでほぼ毎日、ライス国務長官は私に、ハドレー大統領補佐官は安倍官房長官に電話をしてきています。ところが、外務省と官房長官の間に溝はなく、全くブレないことが確認できたものですから、アメリカは安心して英仏と組んで強く出たんです。  
   中国は無法者扱いの北朝鮮を庇い、間に立って調停もできないというイメージダウンを世界に見られるのはバカバカしくてやってられないと思ったでしょう。私が中国外交部の立場に立てば、同じことを考えたろうと想像します。しかしそれでも国連憲章第7章下での決議文が国連安保理で採択されると、武力制裁の道につながるかもしれない。それは中国の最も恐れるところで、従って反対したのが背景ではないかと思われます。  
   日本としては武力攻撃なんて考えているわけではまったくありません。北朝鮮に望んでいるのは、拉致、核、ミサイル問題の解決です。速やかに六者会合に復帰して、アメリカを含む他の5カ国との話し合いを復活する以外に、北朝鮮の生き残る道はないのではないかと、誰もが思っているんです。  
   北朝鮮のように、国際世論をまったく無視して軍事行動が起きるという状況は、総じて軍部が政治より強い時です。満州国建国以降の日本を振り返ってみて下さい。昭和12年、南京攻略の命令は、政府はおろか大本営からも下っていないにもかかわらず、現場が先走って、取り返しのつかないことになったのが歴史です。  
   従って今回も非常識なのが隣国にいるという前提で、こちらも用意しておかないとイカンということです。  
   幸い、ニューヨーク時間7月15日午後3時45分、決議1695が国連安全保障理事会において全会一致で採択されました。 
   第7章が除かされたとか、制裁義務が強制されない等々、相変わらず知ったかぶりの識者と称される方々のご意見もあるでしょう。しかし1998年のテポドン1号の時を思い出して下さい。決議案どころか議長声明にも届かない記者向けの声明を出すだけに2週間もかかったんです。その結果が8年後の今回の発射です。それに比較して今回は制裁決議で、その内容は北朝鮮にミサイルの技術関連物資を売っても買ってもダメだと明記してあり、7章に替わって前文で明確に国際平和を危うくすると明言し、各国に特別な責任を要求し、今後も国連はこの問題に係わってゆくと明記してあります。もし北朝鮮がこの決議文に従わないならば、次は国連安保理は仮に日本が理事国でなくなっても、この制裁決議の上に立って、更なる行動ができることになりました。
   この10日ほど、日本は誠に厳しい外交交渉を余儀なくされ、米英仏露中の外務大臣とはもちろん、他の非常任理事国の外相とも、昼夜を問わず電話会談しました。結果、日米の連携が密であり、日本の意見が終始一貫していたため、全会一致での決議文採択となりました。北朝鮮がこの国際世論のメッセージを正しく読み取って対応するよう、日本としても一層の努力が必要です。なぜなら決議採択は目的でなく、北朝鮮を国際社会に復帰させるための手段のひとつにすぎないからです。


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