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2007年4月号 |
『資産デフレ(二)』 |
「貸出し金利がゼロでも企業が銀行に金を借りに来ないということを前提にして書かれた経済学の本があったら、ぜひ教えてらいたいたい」。これは約6年前、森総理大臣に同行を命じられ、経済財政担当大臣として米国ホワイトハウスに行ったとき、リンゼー経済担当補佐官と懇談したときに言ったことです。
「もう一回言ってくれ」とリンゼー氏が言われたので「私の英語が判らないのか、それとも私の言っている意味が判らないのか」と質したら、「意味が理解できない」という返事だったんです。そこで私の方から、日本で今起きている不況の理由について説明をしたんですが、以来今日までアメリカから日本のマクロ経済の本質的な要求はなされていないと思っています。
企業が金を借りず、返済を優先する。これを経済界の用語では「利益の最大化をはからず、債務の最小化をはかる」といいます。つまり企業は貸出し金利が限りなくゼロに近いくらいに低くても、銀行から金を借りて設備投資をしない。利益が出たら、これまでの借入金の返済を優先させたということです。結果、何が起こったか。壮大な「合成の誤謬」が発生しました。
合成の誤謬・・・あまり聞き慣れない言葉だと存じます。簡単に言えば、よいことだからといって、皆で一斉にやったら、結果は必ずしもよいことにはならないという意味です。麻生太郎が酒も煙草もゴルフも選挙もヤメタとします。医者もほめるし私の体も喜ぶ。妻も赤飯炊いて喜ぶでしょう。しかし同じことを日本人が全員でやったらどうなるか。全国の酒屋、煙草屋、ゴルフ場、飲み屋、歓楽街が軒並みツブレルことは確実で、失業者は溢れ、結果として不況になる。一人でやることは問題なくよいことでも、1億2千万人が一斉にやったら大問題です。
企業が借入金を銀行に返済するのは当然ですが、全企業が一斉に借入れより返済を優先したら、まず金融業は成り立たなくなる。金を貸して利鞘(りざや)を取る金貸し業は、金を借りる人がいるという前提で成り立ちます。借り手の主たる企業が金を借りず、預金する個人が今まで通りだったら、銀行商売は成り立ちません。企業の借入金返済が年間20兆も25兆円も行われ、個人預金が5兆も10兆も入ってきたら、その25兆から35兆円がデフレ圧力となるわけです。そうなれば30兆円前後の金を借りてくれる人がいなければ、デフレによる大恐慌になります。1920年代末にアメリカで起きた大恐慌も、昭和初期の高橋是清蔵相下の大不況もデフレ下の不況だったんです。
つまり、今回の場合は、政府がその30兆円の金を国債として借りて来られたから、日本の不況はこの程度で済み、GDPもこれだけのデフレ不況下で500兆円を維持できました。
マスコミが何と言おうと、国債で民間資金を年間30兆円吸い上げ続けたのは正しい選択だった・・・と後世の経済学者は書くと思いますが、今現在、こんな異論を言っているのは私の他はあまり知りません。
さて、前回も述べた通り、企業の自己努力により債務超過の状況から脱した会社は、税金繰り延べ特別措置の2年延長も利用し終わり、このところ純利益を大幅に上げている企業が増えています。政府にすれば、やっと法人税収入が増加することになりました。そうなれば、歳出の削減策も徐々に効果が上がりはじめ、政府は予算編成のために国債を30兆円も出して、民間資金を吸い上げる必要が無くなりつつあります。まことに結構な流れだとして喜ばなくちゃイケマセン。
しかし、問題があります。民間の資金需要の不足です。各企業が債務超過状況から脱して、返済金に廻していた金を、再び設備投資や機械の発注に廻し始めるか、さらに自己資金、キャッシュフローだけでなく、銀行から借り入れ金を起こして設備投資などができるか否かが大問題です。もし今まで通りだと銀行には金が余り、政府も税収増でその金を借りないということになります。そうなれば又デフレ不況の再来ということになるんです。
今の経済状況は極めて難しいハンドル操作を求められているのです。経済を成長させるためにいろいろの施策がなされるにせよ、安易に財政再建を優先させて、国債の借入れを単純に減額すれば景気上昇が持続するなんて単純な話ではないことを「異論」として申し上げます。
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