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2007年6月号 |
『絶望と貧困(ニ)』 |
チリの外務大臣と夕食を共にしたことがあります。この国は貧しい国でしたが、思い切った貿易自由化を行い、25年で中南米で最も豊かで、政治も安定した国の一つになったことでも有名です。そのチリにパレスチナ系とイスラエル系チリ人の社会があり、共に大きな集団ですが双方大変仲がよく、力を合わせてやっているという話を聞きました。つまり宗教はユダヤ教、イスラム教と異なっていても、キリスト教系社会のチリで協調しあっている現実があるんです。
私はテロの最大の理由は宗教対立ではなく「貧困と絶望」だと思います。パレスチナでは国民の約30%弱が失業者。他国にいるパレスチナ同胞からの義援金や国際機関からの支援に頼っています。当然貧しいし、将来への希望もなく自暴自棄に陥りやすくて、テロの温床になりやすいんじゃないか。そこで私はこれは政治の話だけじゃなく、経済での話でもあると考えて、イスラエル、パレスチナ、ヨルダンそれぞれの代表の方々に提案してみました。
「イスラエル建国当時は、他国にいる同胞に支援を頼んでいたが、やがて広大な農業団地(キブツ)を作り、そこに共同社会を作って農産物の輸出を始め、国家としての体裁を整えた。イスラエル人にできてパレスチナ人にできないはずはない。気候、風土はほぼ同じだし、農業に難しい学問が要求されるわけでもない。但し真面目に働いてもらいたい。我々日本人はそれを支援するし一緒に作業もする。しかし農作物は作っただけではダメ、売って収益を得るために、ヨルダンを経由して輸出する。その販売についても日本は支援するので、ヨルダンもこれに協力してください。またイスラエルもこのプロジェクトに側面的な協力をしてほしい。つまり農業団地周辺地域の設置・運営や治安などに力を貸してください。そうすればトマトやオレンジなどが作られ、日本が手伝ってアラブ諸国やヨーロッパに輸出もできるだろうし、日本だって輸入できる。事実、地中海周辺のトマトなどが日本に輸入されているし、イタリアンレストランで日本人客から高く評価されているのが現状なんです」と。
最初の反応は半信半疑でした。当然でしょう。しかし長い時間をかけて、三者の代表を説得し続けました。
幸いだったことは、日本はこの地域にこれまであまり縁がなかったため、騙したり、搾取したりしたことがなく、西欧人に対する不信感みたいなものが、日本人に対して無いということです。
「日本は自国の文化、伝統を維持しながら、近代工業化に成功し、世界第2の経済大国になった国」というのが、中近東各国における通常の「対日本評価」なんです。
長い交渉でしたが、この3月には三者の代表が東京に来て、日本を含む四者で会議を行い、合意に達しました。日本としては、早速3月末に調査団を派遣し、パレスチナのどこで農業団地を始めるかなどの調査をすでに開始しています。
長い紛争の歴史があります。そんなに簡単に事が進むと考えるほど楽観視しているわけではありません。ただこの60年間に行われた和平交渉とはまったく異なり、「経済」という側面から和平に繋がる話を進めたことはこれまでにありませんでした。従って成功するか否かはまだ判断できる状況ではありません。
しかしこの提案内容を、アメリカ政府のある高官に話してみたところ、「アメリカでは考えられないプロジェクトだ。想像もできない。何かわれわれが手伝えることがあったら言ってくれ」という返事がありました。
またドイツからも、一緒にやってもよいという話が間接的にありました。
私は韓国と一緒にやるのも一つの考えではないかと思っています。同じ東洋人が、共同でパレスチナ和平に貢献できるということは、素晴らしいことだと思います。やはり一緒に生活するとか、共同で一つの仕事を一緒にやるのが、お互いを理解し、仲よくなれる一番の方法でもありますから。
結果はしばらく先の話になりましょうが、この「平和と繁栄の回廊」構想が進展し、「不安定の弧」が「自由と繁栄の弧」へと変わっていく夢と希望を持っている次第です。
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