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講演・論文
2006年4月4日 朝日新聞紙面より 06自民党総裁選〜言葉をたどる〜

続・経済立国めざす
格差感解消、責務と

 「安倍氏とおれの違い?『経済』ってことになるかもしれねえな」
 3月18日夜。麻生太郎外相は、ポスト小泉レースの有力なライバルである安倍晋三官房長官との政策面の違いを記者団から聞かれ、いつもの「べらんめえ調」のだみ声で答えたが、計算し尽くした言葉だった。豪州シドニーで米豪外相との戦略対話という外交のひのき舞台の役回りを終えた直後に、あえて「経済通」をアピールしたからだ。
 今月1日。札幌市で「新時代を創る」と題して1時間余り講演した際も、大半を経済問題に費やした。
 「小さくても強い政府でないとだめだ」。わざわざ「小さな政府」論に注文をつけたのは、小泉政権の単なる継承者ではないとの立場を示すためだ。
 その「強い政府」について「世界に冠たる『活力ある高齢化社会』をめざす。そろそろ自虐的な市民から目覚めてもらわないといけない」とも語った。「富国強兵のように、時代が動く時は常に四文字熟語があった」とよく口にする麻生氏はいま、新たな言葉を練っている。
 市場の自由化を進めて日本企業の国際競争力を高める。総裁選に向けての主張の柱だ。小泉政権の党政調会長、総務相として自らが取り組んだ規制緩和について今月、地元の福岡県飯塚市の郷土誌に連載しているコラムでこう書いた。 「規制緩和でタクシー運転手の平均年収は低下した。しかし、物は考えようで、規制緩和がなければ不況で解雇された中高年がタクシー運転手として再雇用されることはなかった。格差と『格差感』は似て非なるものだ」
 格差の存在そのものを問題視するのではなく、格差を強く意識するようになった国民感情の解消に取り組むことが政治家の仕事なのだと思い定めている。

32歳で社長 成功と失敗
  麻生家は明治時代から「黒ダイヤ」ともてはやされた炭坑を福岡県飯塚市一帯で経営し、「筑豊の御三家」と言われた。
 父方の祖父が興し、70年代には40社以上を束ねた有力企業グループの御曹司という経歴は、一見華やかに見える。だが、成功と失敗を積み重ねた。
 父親が営む麻生産業に麻生氏が入社したのは66年。当時は国のエネルギー政策の転換期で、同社が生産の主力を石炭からセメントに変える直前だった。初出勤の時の感想を社史に「今日は葬式じゃないかと思った」と記している。数年後には炭坑街の激しい「川筋気質」をもつ組合との交渉の矢面にも立った。73年、32歳で社長になった。「親から与えられたものをじっと守っておく性格ではない」と、積極的に新規事業を手がけた。
 外食時代を見越し、中華料理のファストフード店を東京に開いたものの失敗した。一方、当時珍しかった企業の会計処理を請け負う会社の設立や病院、スーパーの事業拡大に成功した。国のエネルギー政策にほんろうされながらグループ企業の経営のかじとりをしてきた自負がある。
 バブル崩壊で日本経済が長く低迷を続けた中で、結局生き残ったのは国に頼らなかった企業だとの強い思いがもともとあった。規制緩和の重要さを唱えるのは、自らの経営者体験で得た確信があるからだ。
 初めて立候補した01年の総裁選で小泉首相と戦ったが、橋本龍太郎、亀井静香の残りの2候補よりは小泉首相に近いスタンスだった。

外交も安倍氏と差
 「戦後保守の流れは二大別される」。麻生氏の持論だ。母方の祖父の吉田茂に代表される経済優先、軽武装の路線と、鳩山一郎以来の政治優先、自主憲法制定の路線を指している。前者は池田勇人や自らが身を置いてきた自民党宏池会の流れであり、後者は安倍氏の祖父の岸信介氏らの流れだ。
 安倍氏が憲法改正をはじめ戦後保守政治の理念の再構築を図ろうとするのに対し、麻生氏は構造改革とその修正に取り組むことで違いを際立たそうとしている。
 吉田路線は池田、佐藤両政権に引き継がれ、官僚主導による産業保護政策で高度成長をもたらした。規制緩和を強く唱える麻生氏は、祖父の路線を乗り越えて新たな経済政策を束ねる「続・経済立国」路線をめざす。
 その核心はリアリズムだ。現在の「本業」の外交でも、「対中強硬派」と目される一方で経済大国としての貢献の必要性を訴える。
 2月24日の衆院外務委員会では、中国が抱える地域間格差や公害問題などへの対応について「日本が60年代、70年代に苦労して解決したことばかり。協力しあえることは実はいっばいある」と述べ、技術協力などソフトパワーの活用を説いた。
 靖国神社参拝問題についても、麻生氏は今月2日の民放番組で「国益と自分の気持ちのどちらが重いか」と聞かれ、「国会議員だったら国益を優先するのは当然です」と小泉首相との違いを見せた。同じ日、安倍氏はNHKの番組で首相になった場合の対応について「行かないと決めたわけではないのか」と問われ、「もちろん違う。いちいち宣言しない」と答えている。
 経済政策だけでなく外交政策でも、麻生氏は安倍氏との差異を鮮明にし始めている。

(朝日新聞社に無断で転載することを禁じます)

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