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講演・論文
2008年6月13日 『「再チャレンジ」実現できる社会環境を 』  

   サブカルチャーの発信地でもある東京・秋葉原で、誠に痛ましい事件が起きました。お亡くなりになった方々のご冥福を心からお祈りするとともに、被害に遭われた方々には謹んでお見舞い申し上げます。
 こうした許し難い事件が起きないよう、われわれ政治家は対策を講じていかねばなりませんが、それにあたって思うところを記してみたいと思います。
 事件が起きるとまず最初に出てくるのが、「○○を規制しろ」という話です。今回の事件で言えば、ナイフ規制や歩行者天国の実施を取りやめようという動きですが、日常生活でほとんど使われることのない戦闘用「ダガーナイフ」の販売規制などは一つの方法でしょう。ただ、すべてのナイフに規制をかけろといった意見もあるようですが、それはいかがなものでしょうか。
 昔は小学校などでも様々なナイフを使って鉛筆を削ったものでした。今よりナイフは格段に普及していたと思われますが、ナイフを使った凶悪犯罪が多かったかといえばそうではない。逆に小さい頃からナイフで鉛筆削りをしたことが、「物作り大国・日本」を支える一つの要因になったのは疑いないところです。要するに悪いのはナイフではなく、使う人間に問題があるということをきちっと認識することです。
 先日も子どもを守るために「小中学生に携帯電話を持たせるな」という意見が政府内で出たようですが、携帯で親子のコミュニケーションが成りたっている家庭もあるし、GPS機能などを使って子どもの安全を図っている家庭だってある。
 大事なのは道具や制度をどう使っていくかということで、携帯で言えばフィルタリングをかけるなど、そこに人間の知恵が求められるわけです。ただ、その場合も国の規制は最小限にとどめ、民間の努力で行うことが肝要です。国による規制だらけの社会は、決して住みやすい社会じゃあないでしょう。
 では、政治家として、どう再発防止など事件に対処していくべきなのか。一つは多様化した価値観を認めあうような社会を作っていくこと。具体的に言えば、一つの物差しで人を「勝ち組」「負け組」に分類するような社会から、さまざまな価値観を認め合う社会にしていくことです。報道などを見ていると、とかくオタクを特別な存在や「負け組」にしがちなように感じられますが、偉大な発明家や芸術家の多くは、いわゆるオタクだったはずです。
 そもそも長い人生、負けるってことは何回もあります。私だって落選したり自民党総裁選で3回も負けました。そこで大事なのは、もう一回チャレンジしようと頑張ること、「再チャレンジ」なんて言葉もありましたが、それを実現できる社会環境にしていくことでしょう。
 私が考えるに、頑張って生きようとか向上しようという意欲をなくした時、人は初めて「負け組」になるのであって、それは個々人の意思の問題かもしれません。
 また、教育が学校や知育に偏りすぎているのも見直す必要がある。体育や食育、健康教育など、もっと子どもたちが学ぶべきものはたくさんあります。
 「教育は教えることより育てることを考えねばダメだ。大切なことは、技術屋になろうと高専に行った人間と、役人になりたくて東大に行った人間はどちらが偉いのかと比較できない点だな。5段階評価なんて基準で、人間の価値を決めるようなことはおかしいんだよ」
 これは祖父・吉田茂が87歳の時に私に語った言葉ですが、今でも十分に通用する見識でしょう。
 いわゆるワーキングプアと言われる問題は、緊急に対処していく必要があります。具体的な対策については別の機会に譲りますが、重要なのは経済全体のパイを大きくしていくことで、それは政治としてすぐに取り組めるはずです。
 

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